先週の日曜日、伯父の葬儀のため、奥州市前沢に行きました。葬儀では、伯父の生い立ちをまとめた「菅原恭正96歳の旅立ち」というパンフレットと、フォトブック、そして、「教師生活四十年」という実践集が用意されていました。この実践集には、自身の講演の記録、授業実践事例の他、演劇の脚本、小説など様々な著作物が網羅されています。これらを読むと、子どもたちに、平和で民主的、安全・安心な未来を届けようとする伯父のあふれる教育愛を感じます。そして、そのような教育を守ることが教師の責任であるという思いも私は受け止めました。
では、この中から、「かよちゃん、歌って!」という脚本を紹介したいと思います。ヤスマサ氏も書いていますが、これは実際に学級活動の中で起きた出来事を演劇用に脚色したもので、子どもたちの発言、日記、作文はほぼそのままとのことです。
■ かよちゃん、歌って! ~父母の出稼ぎと子どもたち~
作・スガワラヤスマサ 1964年5月5日 作
■ とき 1964年・学芸会前のある日
■ ところ 衣川小学校四年生の教室・廊下
■ でる人 四年生の子どもたち
かよ子(父母とも出稼ぎ中) 孝・和子・和代など(父親が出稼ぎ中)ほか級友多数
【幕の前】
廊下の感じ、子どもたち数名。テープ跳びをして遊んでいる。上手より、かよ子が通りかかる。テープ跳びの子どもたち、かよ子に気づいて・・・
友 子:あ、かよ子ちゃん、来たど。
久美子:また、じゃま されっと。
- かよ子、かってに中に入ってテープ跳びを始める -
その子:かよ子ちゃん、やめろ!
礼 子:かよ子ちゃん、順番だど!
ゆみ子:いっそ、じゃまっぱりして!
幸 子:かよ子ちゃんの班長とこ、呼びにいってこ。
-友子、うながされて下手に入る -
かよ子:班長がなんだってや。班長なんか、いっこ、おっかなくないっちゃ。
-かよ子 じゃまを続ける。下手から班長の美智子が友子と一緒に登場する -
美智子:かよ子ちゃん、やめらんえ、遊んでいる人、げねんだど。
かよ子:なにや、班長だからと思って、いばんねんだ。いっそ、この人たちばりさ、すけて
おらだって、遊びたいんだからな。
美智子:んだから、まぜらんえて語って、まぜられろばいいんだや。
かよ子:うるしゃ!ボロ班長!ボッコレ班長!班長から五十点しかとれねくせに、いばんな!
- かよ子、あいかわらず、テープにからんでじゃまをする -
美智子:かよちゃん、やめろってば!日記さかくど。
かよ子:書けやさ、書いたって平気だ。
- 美智子をつっぱなし、みんなに向かって -
かよ子:班長な、いっそ、日記、おめどの悪口ばり書いてるど。みんなでその日記とりかえせ。
- みんなテープ跳びをやめ、迷っている。 美智子、日記を後ろにかくす -
かよ子:友子ちゃん、とれ!
- 命令する -
- かよ子ににらまれて、友子やむなく取ろうとする。美智子はねかえす。
かよ子後ろにまわって、美智子からむりやり日記をとりあげる。美智子しくしく泣きだす -
かよ子:みんな、あべ!班長の日記読んでみんべす。
- かよ子を先頭に、みんなひきずられるように上手に入る -
- 暗転 -
- マイクを通して美智子の声で -
「きょうも、そうじの時間にかよちゃんがあばれた。班長日記をとりかえして、もじゃくったりした。私はみんなに泣かせられたりするので、学校へくるのがいやになった。私は、あしたから学校にこないかもしれない。班長になったら学校がいやになった。かよ子ちゃんのために、いつもボロ班になってしまう。なおそうとしても、ぼう力を使っていじめられる。私は、あと班長になりたくない。先生、みなさん、班長をやめかしてください。学校へも来たくありません」
【幕ひらく】
教室。机がグループごとにならべられ、上の壁に「みんながひとりのために、ひとりがみんなのために」のスローガンなどが貼ってある。
-子どもたち、席に座ってガヤガヤ話し合っている。先生、下手から入ってくる -
日 直:起立!礼!着席!
先 生:きょうの学級会は、美智子さんが班長をやめたいと言っている問題について話し合いたいと思います。議長、前
に出てください。
- 成人、さえ子、議長席につく -
さえ子:では、これから学級会を始めます。
議 長 :先生、問題を説明してください。
先 生:美智子さんが、きのうの日記に、班長をやめたい、学校に行きたくないと書きました。
かよ子さんたちに、乱暴されるからだそうです。どうしたら七班が仲良くなるのか、
みなで話し合ってもらいたいと思います。
議 長:美智子さん、もう少しくわしく話してください。
- 美智子、かよ子の方をチラチラ見ながら -
美智子:かよ子ちゃんがいっそ、班長に文句を言います。
遊んでいるのをじゃましたり、ころばしたり、首をしめたりします。
班長日記をとりかえしてもじゃくったり・・なおすべとしてもなおりません。
「おらほボロ班にしてやる。みんなも班長の言うこと聞くな」なんて言ったりするから、
班長をやめたくなりました。
議 長:かよ子さん、そのとおりですか?
かよ子:おればりでねよ。その子ちゃんも、那須川友子ちゃんも、登君や孝君も、班長さかかっけよ。
那須川:かんけい!
議 長:友子さん
那須川:かよ子ちゃんが「班長やっつけろ」って語るんだよ。
議 長:登君や孝君もそうですか?
孝・登:はい。
議 長:かよ子さん、立ってください。かよ子さんが先にたって班長をいじめるのですか?
- かよ子、だまって立っている -
議 長:だれか意見ありませんか?
千恵子:はい!
議 長:千恵子さん。
千恵子:あのね、かよ子ちゃんね、班長さばかりでなく、おらたちさもらんぼうするんだよ。
君子ちゃんと手をつないで歩いている時、後ろから来て、手をギリギリはなさせて、
あと、ころばしたりなんかもします。
- 数人、「議長!」といって手をあげる。「おらもされたった」という声、そちこちにおこる -
議 長:かってに話さないでください。和子さん!
和 子:かよちゃんね、だれさでもいたずらしたり、ぼう力ふるったりさいて、遊んでいるのをじゃまします。
利 義:議長!
議 長:としよし君。
利 義:かよ子ちゃん、おなごのくせに、うんときかないよ。男さ命令して班長やっつけさせたりしてボスのようです。
- 「んだボスだ」「おなごボス」などガヤガヤ -
議 長:かよ子さんに聞きますが、なぜそんならんぼうをするのですか?
かよ子:・・・班長が日記をかくして書くからです。
議 長:美智子さん、ほんとうですか?
美智子:おれ、日記書いていると、見て、いっそ文句つけて書かれなくなるからかくして書くのです。
ヨシ子:議長!
議 長:はいヨシ子さん
ヨシ子:あのね、かよこちゃんね、もと、おらだの一班にいた時は、班長に協力したし、
そんなにらんぼうしたりしなかったんだよ。きかなくするようになったのはこのごろだよ。
慶一:んだ。前はみんなと仲良く遊んだし、そうじなんかも、いっこさぼんなかったよ。
議長:すると、かよ子さんはこの頃きかなくするようになったのですか?
- みんな口々に「はい」「そうです」などと -
武 彦:きっと何か わけがあるんだよ。
議 長:では、おとなしかったかよ子ちゃんが、どうしてこの頃きかなくなって
ボスみたいにしているのかをこれから話し合うことにします。
先 生:はい、議長!
議 長:どうぞ、先生。
- 先生、机のひきだしから作文ノートを取り出す -
先 生:ここに、かよ子さんがこの間書いた作文があります。
みんなの話し合いの参考になると思いますので、読んでみます。
みんなで聞いてほしいのですが、いいですか?
みんな:はい。
- 先生、かよ子の書いた作文をゆっくりと読みはじめる -
「わたしのうちには、今、お父さんもお母さんもいません。しばらく前、遠くに出かせぎに行ったからです。うちには、からだの弱いおばあさんと、兄さんや妹たちだけです。だから、わたしたりは、朝五時に起きて、すいじやそうじをしています。早く起きて、かせいでからくるので、学校でべんきょうしている時、ねむくなってこまります。でもせっかく学校にきて、ねむっているわけにはいかないので、がんばって目をあけて先生の話をきいています。お父さんとお母さんから、七回手紙がきましたが、その中には『かよ子、ほの子、てるみ、お母さんのことを考えず、しっかりべんきょうしろよ』と書いてありました。私はお母さんのことを考えずべんきょうしようとしても、学校に来るとかならずお母さんのことを思い出します。お父さんやお母さんがどんなしごとをしているかな、けがをしたり、病気になったりしなければいいなと考えます。この前の水曜日の午後三時五十八分にまた手紙がきました。そのふうとうの中に、一万五千円入っていました。ちょうど店やさんがきたので、えび二ふくろとダシ一ふくろ買って、百五十円使いました。わたしはお父さんやお母さんたちと、みんなでそろってごはんを食べたいなあと思います。お父さんやお母さんの話を聞きながらねたいなあと思います。組の人たちが、『おらえの母ちゃんに作ってもらった』とか『おらえの父ちゃんに買ってもらった』などとたのしそうに話しているのを聞くと、とてもさびしくなります。にくらしいと思うときもあります。ゆみちゃんなんかが、『母ちゃんたち、まだ来ねのが』というので、わすれて遊んでいても思い出してしまいます。お米やふくなどを買うお金をたくさんとって、早くお父さんやお母さんが帰ってこばいいなと、わたしも、ほの子も、あんちゃんたちと待っています」
- みんな、じっと聞いている。 読み終わる -
- 間 -
武 彦:わかった!議長!
- とつぜん、手をあげる -
議 長:武彦君。
武 彦:かよ子さんがみんなにらんぼうするのは、きっと、お父さんやお母さんがいなくてさびしいからだと思います。
茂 :同感! はい!
議 長:茂君。
茂 :この間、テレビで「カギッ子」っていうのを見たらね、
父さんと母さん、かせぎに行って、小さな子どもひとりだけのこって、カギもってるすばんしててね。
おもしろくなくて、カギぶんなげたり、とおくさ出かけたりするっけよ。
かよ子さんの気持ちも「カギッ子」みたいなんでねべか?
- 正明、かってにしゃべりだす -
正 明:なあに、かよ子ちゃんに妹だのあんやだのあっぺ。
だから、さびしい時はブルートやオリーブのようにあんやとキスしていろばいいんだや。
- ざわめく。笑い声も聞こえる。武彦きおいこんで、たつ -
武 彦:正ちゃん!ふざけないんだ。いっそテレビの悪い番組ばかり見ているから、
みんなでまじめに話をしている時、そんなバカなことを言うんだよ。
- 正明、頭をかいて すわる -
和 子:はい、議長!
議 長:和子さん。
和 子:わたしのとうちゃんも出かせぎに行っていますが、わたしは、とうちゃん酒のんでよったくれるから、
いなくてもさびしくありません。かえっと、いない方いいです。
- 和子、笑いながらすわる -
洋 子:議長!
議 長:洋子さん。
洋 子:やっぱ、かよ子ちゃん、さびしいかららんぼうするんだと思います。
みんなと遊びたいと思っても、みんながまたらんぼうされるこってねかと思ってなかまさ入れないから、
きかなくするのだと思います。和子さんはお父さんがいなくてもお母さんがいるから、
かよ子ちゃんよりさびしくないと思います。
- 「同感」の声、そちこちに起こる -
妙 子:んだ、はい!
議 長:妙子さん。
妙 子:さびしいので、みんながなかよく遊んでいるのを見ると、こばんで、やめかしたりするのだと思います
議 長:かよ子さん、そうですか?
- かよ子、涙ぐんで立つ。だまっている -
議 長:かよ子さん、父ちゃんや母ちゃんがいなくてさびしいので、
みんながなかよく遊んでいるのをみて、こばんで、らんぼうしたのですか?
- かよ子、静かにうなずく -
議 長:かよ子さんが、らんぼうするわけがわかったので、どうしたらいいかを、これから話し合います。
意見のある人は出してください。
正 明:はい!
議 長:正明君。
正 明:かよ子ちゃんの父ちゃんと母ちゃんに手紙を出して、帰ってきてもらえばいいと思います。
孝 :議長!
議 長:孝君。
孝 :おらえの父ちゃんも出かせぎに行っていますが、生活が苦しくてゼニとんべて行っているのだから、
帰ってこいというのは、むりです。
和 代:議長!
議 長:和代さん。
和 代:ぜい金だの、ひりょう代だの、給食ひだのってゼニばかりかかるから出かせぎに行くのです。
おらえの父ちゃんも、うちのこと心配しながら出かせぎに行っています。
帰れといったって、ゼニとんねうちに帰ってこれないと思います
- 「んだ」「んだ」の声いくつか 「おらえもだ」の声も聞こえる -
議 長:では、どうすればいいと思いますか。
千恵子:はい!
議 長:千恵子さん。
千恵子:これからなかまはずれにしないで、みんなでかよ子ちゃんとあそんでやればいいと思います。
- 「さんせい」「さんせい」の声 -
議 長:みんなもいいですか。
みんな:はーい
利 義:はい、議長!つけくわえて
議 長:利義君
利 義:あとね、班長日記をかくしたりしないで、みんなで話し合ってかくようにすればいいと思います。
それに、かよ子ちゃんも、これからさびしいからって、
友だちにらんぼうしないようにすればいいと思います。
議 長:美智子さん、かよ子さん、いいですか?
ふたり:はい
議 長:あとありませんか?
- みんなをみまわす -
洋 子:はい!
議 長:どうぞ
洋 子:かよ子ちゃんが心配しているように、かよ子ちゃんのお父さんやお母さんも、
かよ子ちゃんのことを心配しているんだから、和子さんだの孝君だの、和代さんのお父さんも入れて、
みんなで、出かせぎに行っているお父さんたちに、はげましの手紙を出したらどうですか?
- 「さんせい」「さんせい」の声、拍手 -
議 長:先生、いいですか?
先 生:わたしもさんせいです。とてもいい考えです。このことは、あとでくわしく相談しましょう。
議 長:では、このへんでおわりにしていいですか?
幸 令:ちょっとまって!議長!
議 長:ゆきよし君。
幸 令:あとね、かよ子ちゃん歌が上手だから、こんどの学芸会の時、うたう歌の独唱のところ、
かよ子ちゃんに決めればいいと思います。
- 「さんせい」の声、拍手つづく -
- かよ子、にっこりして顔を上げる -
正 明:んで、いまかられんしゅうすんべ!
- 「んだ」「んだ」「かよ子ちゃん、がんばれよ」 -
みんなは、かよ子を先頭におしたてて、オルガンのまわりに集まる。議長もおりてきて、みんなの中に加わる。先生、オルガンの椅子にすわり、伴奏を始める。
利 義:さあ、かよ子ちゃん、元気だして歌えよ!
千恵子:一、二の三!
- かよ子、みんなにはげまされ、大きく口をあけて歌いだす -
かよ子:あお山 土手から 東山 見ればね
みんな:ハイ、見ればね
かよ子:見れば 見るほど 涙が ボロボロ
みんな:ハイ、ボロボロ
かよ子:ぼろぼろ 涙を たもとで ふきましょ
みんな:ハイ、ふきましょ
- 歌 つづく -
- 先生、オルガンを弾きながら、みんなの顔をうれしそうに見ている。スポットがかよ子の笑顔に、そして、みんなの歌っている顔に、「ひとりがみんなのために みんながひとりのために」のスローガンが明るくてらしだされて -
【幕】
※ この脚本は、わたしの学級でおきた事実をもとに、上演用に脚色したもので、子どもたちの発言、日記、作文は殆どそのまま引用しました。(スガワラヤスマサ)
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川合正義 (月曜日, 22 7月 2024 14:33)
子ども達の目の前の問題を子ども達を主権者として、子ども達の意見をもとに決めて実行している。これを指導していた管原先生を尊敬します。よませていただきありがとうございました。