今から18年前の話(2003年)ですが、私が盛岡三高に勤務していた時、K君という数学大好少年がおりました。彼は、自分で教科書を離れた学びをすることが好きで、近所の書店で大好きな数学の本を夜まで読んでいたりする生徒でした(ちなみにその書店ではK君のために、K君シートという座席を用意していたらしい。粋な本屋だぜ)。
彼は、東北大にAOⅡ期で合格したので、大学から与えられた力学のテキストの勉強に、それは楽しそうに取り組んでいました。そのテキストは結構ボリュームがあり、内容も大学初年級を網羅するレベルです。
私はK君の取り組みを見て2つのことがわかりました。
一つは、好きと熱中がリミッターを外すということです。最初は、全微分可能の条件とか、ヤコビアンの意味とか、新しい概念が出てくるたびにかなり苦戦していましたが、2か月かそこらで、線形常微分方程式、ベクトル解析の基本をマスターし、あっという間にナブラ記号やラプラシアンやハミルトニアンも使いこなすようになっていました。
そして、わかったことの二つ目は、生徒は高校の数学教師を過剰に信頼しているということでした。当初、分からない用語や解けない問題があるとK君は数学科の教員に質問に行きました。「ロンスキアンって何ですか」とか。数学の教師は生徒の前でなんでもわかっているようにふるまっているから、きっと何でもすぐ答えてくれるだろうと純粋に信じていたのかもしれませんね。ところが、数学科教員の中で、K君の質問にまともに対応できる教師はおりません。「昔やったけれど忘れたなあ」とかいってやりすごしているカンジになり、だんだんK君から逃げ回っていくようになりました。
結局、K君の相手をしたのは私と物理の女性の教員の2人でした。自慢じゃないですが、私しゃあ大学数学の落ちこぼれなので、分からないことだらけなのです。でも仮にも教室で数学教師として君臨して得意になって授業している自分が、生徒の質問にしっぽを巻いて逃げるわけにもいきません。と、蛮勇をふるって、彼と一緒に勉強するというスタンスで、彼のアドバンス数学の旅のお供をしたのでした。彼のためというより、自分の学びなおしのためというカタチになりましたが、おかげで高校数学の視点で大学数学を展望することの面白さみたいなものを知る、とてもいい機会になったと思います。
では、K君との数学談義からの話題を一つあげたいと思います。2変数関数のテイラー展開についての説明板書です。
さて、これを使って、2変数関数が極値を持つ条件を調べます。ある点で極値を持つとき、その偏微分がともに0になっていれば、停留点ではありますが、それが必ずしも極値であるとは限りません(鞍点なのかもしれない)。
1変数の場合でもf’(a)=0だけでは、x=aで極値を持つとは言えませんね。では、それをどのように判定するかというと、その点の近傍との差が定符号かどうかを調べればいいのですね。つまり、その点の近傍がいつもプラスなら、すり鉢型になるので極小、近傍が常にマイナスなら上に凸タイプなので極大ということですね。そこで、次の板書のように、テイラー展開を2次まで近似した式を作るのです。
すると、板書の最後を見ればわかるように、これは2次関数の定符号条件、つまり2次の係数の符号と、判別式によって判定できるということがわかります。
こんなところに高校1年生で学んだ判別式が登場する!ちょっと嬉しくなりませんか。
右に一つ例題を示しておきます。
コメントをお書きください